バイヨンに見る宇宙観
バイヨンに見る宇宙観
バイヨンの中にいるとなぜかほっとする気持ちになる。それはきっとどの位置にいても仏様の顔がやすらぎを与えてくれるからだろう。寺院のいたるところに四面仏があり、どの顔もやすらかな微笑をしているように見える。日本人にはなじみの深い仏教的な雰囲気が随所に垣間見れるからだ。
アンコール・トムの中心にあるバイヨンは、メール山(須弥山)を象徴化していると言われる。メール山はは古代インドの神々の住む聖域で、神が降臨する場所でもあった。この宇宙観を正確に具現化する狙いがジャヤヴァルマン七世にあったと推測される。
東西南北に延びる幹線道路は、須弥山から世界に向かう道を模し、城壁はヒマラヤの霊峰、城壁を取り囲むように配置された環濠は大海原を象徴している。
内部構造はかなり歪になっていて、複雑極まりない。これといった順路もなく、まるで、迷路のなかにいるようである。二重の回廊で囲まれた伽藍の中に入ると薄暗く、ほとんど光が入ってこない。
しかし、アンコールワットとの決定的な違いはその内部空間にあるといっても過言ではない。通常、クメール建築の弱点ともいえるのは内部空間にある。どうしても技法の観点から内部空間を造りにくい。しかし、このバイヨンはそれらの弱点を克服し、内部空間をふんだんに取り入れた造営方となっている。
そのため、内部には経蔵などが施されて、装飾やレリーフの見所も数多く点在する。また、第二層の中央テラスを囲む16基の尖塔には、それぞれの内部に国内各地の守護神が祭られていたといわれる。
これらの観点からも大乗仏教の仏陀による人々の救済という宇宙観が、より鮮明に見るものに語りかけている。中央祠堂と尖塔の頂部には、50面を超える四面仏の微笑みがあり、バイヨンのどの位置にいても菩薩の暖かいまなざしを感じることができる。