アンコールワットの見所

アンコールワットの見所
アンコールワットの見所
さて、アンコールワットの見所を自分なりに発見したところを解説してみたいと思います。通常、西参道よりアンコールに入りますが、ここからの眺めは最も有名なシルエットのアンコールが水平線を強調しながら、その雄姿を誇っている。観光客の殆どがここで写真撮影をします。

 

一見横長に広がっているように見えるが、実は東西に広い長方形の敷地のため、奥行きの方が遥かに広い。順路を急いで第一回廊へ向かうのもいいが、ここはじっくり時間をかけて、当時の雰囲気を感じながら歴史のロマンに思いを馳せたいところだ。

 

ここで一つポイントだが、参道を進むにつれ、中央に見える3つの尖塔が、あるときは天空を突き刺すように見え、あるときはその姿がまったく見えなくなったりする。これはあきらかに設計者の意図であり、その見え隠れする聖域がより神秘性を増す効果が施されている。これはアンコールを探索する上での最初の謎解きのヒントとなるもので、一つ記憶に留めておいてほしい。

 

次に、参道を進み最初の階段を登ると大きなテラスが広がっている。ここには両側にナーガ(蛇神)の欄干があり、これは大海原を渡ってアンコールワットにたどり着く、あるいは碧海に浮かぶアンコールワットの姿が神秘的に表現されている場所でもある。中央祠堂へのアプローチが小気味よく表現されていて、気持ちも高揚してくる。

 

アンコールワットの見所
この大船ともいえるテラスからは、前方にある回廊付きの西塔門と、中央祠堂群とが重なって見える。これは奥にはもっと大きい建物があることを暗示しているが、さらに進むと今まで確認できていた背後の中央祠堂が忽然と姿を消す。

 

さらに、参道を進むと周壁の西塔門前の階段に突きあたる。さすがにここまで来ると祠堂の姿は確認できず、打って変わったように西塔門の破嵐に施された彫刻が現れる。特に重要な装飾で、細部に渡って丁寧な装飾が施されている。これは美術史的にみても大変重要なもので、題材や構図、彫刻の深さなどが様式判断のスタンダードともなっているようだ。

 

次に西塔門の階段を登りきったところが見所で、中央部にこれ見よがしにあけられた窓枠の先に中央塔が見事に収まって見える。どう見ても意図的に配置されたであろう天然の額縁には、縦横綺麗に中央祠堂の一つが姿を現している。

 

西参道よりアンコールワットを見て歩く中、中央塔の姿だけは表していなかったが、初めてここでお目にかかることになる。明らかに意図された空間構造がなされている。薄暗い西塔門の内部を通り過ぎるとさらに次の仕掛けが待っている。

 

薄暗い内部から序所に光が差し込んでくる。すると三重の回廊で囲まれ、両脇に副祠堂を従えた中央伽藍が姿を現す。塔門の中からは縦長の長方形に切り取られた開口部越しに中央祠堂のみを見せておいて、薄暗闇から抜け出た瞬間に、壮大なスケールの幅(横の広がり)を見事に強調させている。なんとも心憎い演出に驚かされるとともに、神秘的な美しささえ感じる。

 

ここからは中央祠堂までは直線でつながっているが、その距離感を示すために左右対称に経蔵と聖池が順に配置されている。経蔵と聖池への分岐点には小さなテラスが設けられていて、西参道までと西塔門を過ぎてからの参道には、それぞれ7ヵ所のテラスがある。

 

経蔵やテラスにはそれぞれ数段の上がり段が設けられていて、平行移動だけの中央祠堂までの参道にさりげなく、上下移動の階段を設けることによって、心理的に人間の行動を喚起させようとする狙いがある。それはまさに、中央祠堂までの時間と空間を自在に操り、人々に感動という名の神秘性を強烈に植えつける魔法のロードであったに違いない。

 

中央祠堂を散策してさらに進むと、西塔門テラスに出る。どのテラスからも同じだが、絶好のビューポイントに必ずといって良いほどに設けられている。このテラスからは第一回廊と中央祠堂までが遠近感を通して一体化され、まるでアルプスの山々を彷彿させるかのごとく見事な眺望が見れる。

 

第一回廊の入口に近づくと、それまで目印として見えていた中央祠堂頂部の尖塔がまた見えなくなる。本来近づいて行くとだんだん大きく見えるのが常識だがここでもまた、作為的に見せない工夫が施されている。十字回廊を抜け、急な階段を登りきるまで姿は現さないのだ。

 

こうして見ていくと、単に目にしているものが、人々に視覚的インパクトを与えているのが解る。そして、見るものがどう捉え、どう感じるかが、クメール建築の造形のドラマであり、アンコール・ワットの造営の謎をとく手がかりになるのであろう。

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